航空管制員、ダイビング専門学校設立、臨床心理士と多彩な経験を積み、50歳からワイン醸造家へと歩み始めた渋谷英雄さん。南アルプス市のドメーヌを訪ねました。全国46カ所を巡りこの地での醸造を決意取材・文/中林貴美子 撮影/筒井聖子2024年から絶景の畑で温暖化に強く無農薬栽培に向いた品種である「ヤマソービニヨン」を栽培南アルプスの東麓に広がる南アルプス市。その里山エリアに渋谷英雄さんが営む「ドメーヌヒデ」がある。ドメーヌとは、主に醸造だけを行うワイナリーとは違い、ぶどう栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを一貫して行う生産者のこと。渋谷さんはぶどう造りに適した水はけのよい土地を探すために、全国46カ所を訪問。まいた水が何分で畑にしみ込むかを計測し、雨が少なく乾燥しているため「月夜にも灼■ける」と伝わる現在の間■空港での航空管制員からスター地を選んだという。 渋谷さんの社会人生活は、慶■良■ト。会社の合併を機に退職し、潜水士資格を活かしてダイビング専門学校を設立した。「そこでの学生との交流から心理をきちんと学びたいと、東大大学院で臨床心理学を専攻し、資格を所得したんです」。こうして32歳から18年間、学生や社会人のための臨床心理士として活躍していた。 「臨床心理士というのは、人の話 を聞くのが仕事で、自分を表現してはいけない。そんな中で東日本大震災を経験し、人の悲しみを癒やす表現手段として、説法のできるお坊さんや花火師なども考えましたが、お酒があるじゃないかと思いついたんです」そうして50歳から3年間、山梨県勝沼市のワイナリーで修業。 「大変だったでしょうといわれますが、自分で作れることがすごく楽しかった。自信がつきました」2015年からは単身、南アルプス市に移住。ぶどう畑の世話7割、醸造3割の生活を続けている。はじめにぶどう栽培を始めた「桜の畑」。日本固有の「マスカット・ベーリーA」を栽培している「マスカット・ベーリーA」の原液。この美しさに感動したこともワイン造りの原点とか
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